「第8回」身近な防錆技術についてのお話④~防錆の観点から見た「硬貨」~
アドコート㈱の秋山です。
第8回も錆を防ぐ技術とは若干ことなりますが、錆・腐食に強い身近な製品についてのお話にしたいと思います。
皆さんの身近な金属製品のひとつに「硬貨」があります。
日本の硬貨は金属製品であり、多量に存在しながらも非常に高い品質をもつ製品と言われています。
特に500円玉は偽造防止の為に、より高度な金属加工が施されていることが知られています。
さて、その「硬貨」ですが、どのような材質が使われているかご存知でしょうか?
現在日本にある「硬貨」(記念硬貨は除く)は500円、100円、50円、10円、5円、1円と6種類あります。
以下に、硬貨の種類とその材質及び組成についてまとめました。
表1.日本造幣局で製造されている通常貨幣(2020年現在)
硬貨 | 材質 | 組成(百分率) |
500円ニッケル黄銅貨幣 | ニッケル黄銅 | 銅:ニッケル:亜鉛(72:20:8) |
100円白銅貨幣、50円白銅貨幣 | 白銅 | 銅:ニッケル(75:25) |
10円青銅貨幣 | 青銅 | 銅:亜鉛:スズ(95:4~3:2~1) |
5円黄銅貨幣 | 黄銅 | 銅:亜鉛(60~70:40~30) |
1円純アルミニウム貨幣 | アルミニウム | アルミニウム(100) |
新しい10円は金属光沢があり、赤褐色の色味をしています。
しかし、古くなるにつれ、金属光沢は失われ赤黒く変色していきます。
これは空気中で銅が酸化し、表面に酸化被膜が生成され、目で見える厚さに成長しているということです。
特に、手で触れたものには人間の皮脂や汗が付きますので、そこから腐食による変色が起こりやすくなり、徐々に赤黒く変色していきます。
しかし、鉄などの錆のように大きく元の金属を変形させるような腐食ではないので、クエン酸などで磨くことで、元の金属光沢が戻ります。
500円、100円などの硬貨は銅が主成分で有りながら、白い色味をしています。
これは材質中のニッケルによる影響です。
ニッケルは白色の金属光沢をもつ金属であり、ニッケル自体が耐食性・耐薬性が高く、単体で使用されることは少ないですが、ステンレス鋼などに添加することで、それらの耐食性の向上につながる金属です。
その為、10円(青銅)に比べ、白銅である100円などは金属光沢が失われにくくなっています。
以上の材質が硬貨に使われているのには様々な理由があると言われています。
一つは、銅の持つ抗菌作用にあると言われています。多くの人が直接手で触ったり、長期間使用されるものであるので、衛生的観点から銅が使用されていると言われています。
一つは、銅の安定した価値にあります。金貨や銀貨は高価であり、さらに金は年々その価値が上昇し続けていることでも有名です。金の価値が上がり続けた場合、その金貨がもつ価値よりも素材の金としての価値が上回り、「硬貨」としての意味をなさなくなってしまいます。そこで安定した価値のある銅、アルミニウムを使用することで、材質の価値が「硬貨」の価値を上回ることを防いでいると言えます。(2004年頃に中国を中心に電子材料として銅の需要が高まり価格が上昇した。)
そして、最後に腐食しにくい、という点が挙げられます。
金属単体のイオン化傾向から考えれば、アルミニウムは腐食しやすいと言えますが、実際には、アルミニウムは空気中で速やかに酸素と反応し、表面に酸化被膜を作ることで、その酸化被膜が保護層となり、さらなる腐食から防ぐことにより、日常生活においては高い耐食性を発揮します。
銅、銅合金も同様に空気中では速やかに表面に酸化被膜を作ることで、高い耐食性を発揮します。
特に銅は人間の歴史上古くから用いられ、長年の使用により表面に緑青と呼ばれる青色や緑色をした腐食生成物を生成することがしられています。古いお寺などの屋根でみられることもあります。この緑青は空気中の二酸化炭素、硫黄との反応で生成されるものであり、ち密であることから下地の銅の保護に役立っています。
余談となりますが、銅及び銅合金等が主成分である「硬貨」「記念硬貨」の防錆保管には、弊社防錆紙「アドパック-S」及び「アドパック-C」がご使用できますので、ご活用いただけると幸いです。
簡単ですが、以上で身近な防錆技術についてのお話④~防錆の観点から見た「硬貨」~とさせていただきます。
次回は細川の担当になります。
【秋山】
参考:独立行政法人 造幣局HP https://www.mint.go.jp/
一般社団法人 日本銅センターHP http://www.jcda.or.jp/