「第9回」防錆皮膜(2回目) 『吸着皮膜』
吸着皮膜は、金属表面に防錆効果のある分子が並び、水(H2O)と金属が接しないようにする皮膜です。
分子構造には「極性」「無極性」と呼ばれる部分があります。「極性 = 水に溶ける(油に溶けない)」「無極性 = 水に溶けない(油に溶ける)」であり、水に溶ける物質は「極性分子」、水に溶けない物質は「無極性分子」です。「極性分子」は水やアンモニアなど、「無極性分子」は二酸化炭素やメタンガスなどがあります。分子構造を立体的(三次元)で見た場合、化学結合の力のかかり方が均等か不均等かで「極性」「無極性」の判断ができます。水は「H2O」、二酸化炭素は「CO2」で表され、1つの元素を両サイドから挟む形で結合していますが、その結合角は異なります。水の場合(極性分子)、OHの2本の結合角は曲がっており、この結合が伸縮運動すれば、Oに対して斜めに力がかかります。例:1つのものを2人が斜めの位置から押した場合、そのものは動き出します。一方、二酸化炭素の場合(無極性分子)、COの2本の結合は直線で、この結合が伸縮運動すれば、直線に力がかかります。例:1つのものを2人が反対の位置から押した場合、そのものは動きません(押し相撲状態)。
物質は、似た性質のものに溶けやすいため、極性分子は極性分子に溶け、無極性分子は無極性分子に溶けます。しかし、極性分子は無極性分子には溶けません。
この「極性」「無極性」の両方の性質を持った分子を「両親媒性分子」と呼び、一般的には石鹸などで用いられる「界面活性剤」として知られています。イメージでは「マッチ棒」型で紹介されることが多い分子です。
吸着皮膜は、この両親媒性分子が金属表面に並ぶことで皮膜として形成します。金属は極性ですので、両親媒性分子の極性側が金属に接し、両親媒性分子同士は極性同士、無極性同士が接する形になります。形成された吸着皮膜は、無極性が大気側(金属とは反対方向)になります。その結果、極性である水(湿気)は皮膜の無極性には溶け込むことができないため、金属表面に水(湿気)が到達しません。水が到達しなければ、水を媒体にした酸化還元反応が金属表面で生じず、腐食(錆)が生じません。
気化性防錆剤では、吸着皮膜として「アミン類」や「脂肪酸類」が用いられています。両方使用している気化性防錆剤では、アルカリ性のアミン類と酸性の脂肪酸が中和反応を起こして「脂肪酸アミン塩」になります。アミン類は、金属表面と反応しないため再気化が生じますが、脂肪酸類は金属と反応して脂肪酸金属塩となるため、再気化はほとんど生じないといえます。
次回担当の11回目では、「防錆皮膜(3回目) 『沈殿皮膜』」について解説いたします。
【 細 川 】